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 神奈川県の平塚市南金目で日雇い労働者をしていた友人K(男性)の家に、私は身を寄せました。
 彼の家は、元毎日新聞社の古い社宅で、トタン板の外壁のボロ屋でしたが、そこで二人は暮らしました。

 外へ出て誰かに見つかると実家や友人に迷惑がかかるので、一年中私は屋内で過ごしました。

 実家には連日、金を返せ…と嫌がらせが来ていると手紙が届きました。しかし、私はそもそも一銭も受け取っていないのです。

 この時期に「人の弱さ」「力を持った者の怖さ」を学びました。

 やがて一年が過ぎ、私は孤独に耐えられず、自殺を決意しました。

 友人Kを仕事に送り出した後、食卓のちゃぶ台の上で、紙の切れ端に遺書を書きました。

「K、いろいろありがとう…」とそれだけ。
 
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 ちゃぶ台に上がり、スタンドから引きちぎった電気コードを鴨居の穴に通し輪を作りました。
 あらゆる希望を失った時、人間は自分を否定し始めます。

   もう、嫌になったのです。

 自殺というより消去…かも。私は鴨居から下がった電気コードを引いて強度を確かめ、そのまま思いっきり背伸びをしました。
 …でも…「怖い…」やはりできませんでした。
 何度、繰り返したことでしょう。…怖い…怖い…怖い…。

 ついに怒りが突き動かし思いっきり背伸びをさせた時、ふいに時間が止まりました。子供の頃から観てきた様々な記憶が頭をよぎりました。

 「はっ」…と我に返った時、私はしっかりと輪になった電気コードを握っていました。もの凄い…怒りがこみ上げました。
「この勇気が、この勇気があれば、泥水飲んだって生きていけるじゃないか!」怒りが爆発しました!

 怒りで引いたコードの先で鴨居の古木がへし折れていました。